通訳さんのお役立ち情報

通訳の仕事を実際にやっているスタッフの情報発信ページです。

これから、通訳を目指す方や通訳になったばかりの方の参考にしていただければ良いですね!

1)英語講師から通訳へ・・・始まりは1冊のハウツー本の立ち読み

アメリカの大学を卒業し帰国後、初めは大学受験英語を教えていましたが、もっと話す職業に就きたいと思い、通訳を志しました。まず何をして良いのか分からず、本屋へ行き、「通訳になるには」という本を立ち読みしました。そこで通訳学校という存在を知り、通い始めました。

大学選びで迷っている学生達に、まずは資料請求をしたり、オープンキャンパスに行ったり、つてがあるのであれば、先輩に話を聞いたり、情報を集めることから始めるよう話していましたが、ゼロから情報を集めて、知らない世界に飛び込むことになるとは、正直思っていませんでした。

2)「さぁ訳して下さい」という誤解

通訳が必要とされるのは、たいていどこかの仕事場であり、それぞれの仕事の場には、様々な専門用語や専門知識があります。ですが、「英語が出来るのであれば、何でも訳すことができる」という誤解をしていらっしゃる方が、割と多くみえます。

中には、一つの仕事場で専門的に働く通訳もいるので、そういう場合は内容にも精通しており問題ないのですが、様々な場所へ出向くような通訳も沢山います。極端な話、1日だけのお仕事を請け負う場合もあります。その分野で長く務めている方々のお話を訳すには、仕事を請け負った日から、短期間で知識を詰め込むことが必要です。 今の時代は、インターネットがあるので、色々と調べるには、大変恵まれた環境がありますが、昔は図掛館で調べたりするため、かなり大変だったと、通訳学校の先生が仰っていました。

3)泣いて何ぼ

そうして一夜漬けのようにして詰め込んだ知識が、ばっちりと役に立った場合は凄く嬉しいですし、テストのヤマかけが当たったような感じで気持ち良いのですが、駆け出しの時は、自分で納得いかない時など、一人になって泣いたこともあります。

私が最初に行った大きな通訳は、経営者会議でした。その会社の社長を含め、役員の方々が並ぶ中、海外支社の支社長の会計報告プレゼンを通訳するというものです。当時、会計や経営の知謀の無い私は、それでも必死に費料を読み、勉強をしていきました。ですが緊張していた私は、細かい経営成績の話が続く内に、しどろもどろになり、場の空気に飲まれたような感じになっていきました。最後は、強面で有名だった社長さんに、「代われ!」と一言怒鳴られ、あえなく撃沈しました。

先生に、「通訳になったら、一度は絶対に泣く」と言われていましたが、現実になってしまった瞬間です。今、振り返ると、そういった事があるからこそ、「次はうまくやるぞ!」という支えになるのかなとも思います。

4)真っ白になる恐怖

これは、大勢の人がいる会場内の通訳で起きるようです。

VIPの方々が出席されるようなパーティの場合、原稿を先に頂けるようなケースもありますが、原稿が無いことも多いですし、パーティ主催者側が気を利かせ、「一言御挨拶頂けませんか」と、急なスビーチが行われることもあります。そうした場合、大勢の前に立って話す訳ですから、駆け出しは特に、緊張します。緊張すると、簡単な話を訳すだけなのに、なかなか言葉が出てこないことがあります。

私も、パーティー会場でマイクを使って通訳させて碩いた際、急に頭の中が真っ白になった􀅐があります。「prosper(繁栄する)」という、知っているはずの単語だったのですが、訳した内容を話している最中、「あれ?どういう意味だっけ?」と、一瞬よぎってしまいました。その瞬間、それまで話していた内容も飛び、正に真っ白です。当時の上司が、なぜか、後ろからエスパーのように「繁栄」と呟いてくれた瞬間に、意識が戻り、何事もなかったようなふりをして立て直すことができました。が、立て直すまでの数秒が、私の中では永遠に感じて、倒れそうになりました。

5)訳せるだけでもダメ

色々な現場で経験を積み、少し自分の成長が感じられると、嬉しいものです。特に、褒めて頂くようなことが続くと、張り切ってしまいます。ですが、この時期に、落とし穴があります。英語は、今、多くの国で話されているため、ピジネスの世界では、来日される方の母国語ではなかったとしても、英語の通訳を用意するような場面も多々あります。

ある時、4 名でみえたイタリアの方々の通訳をすることになったのですが、その中のお一人は、あまり英語が得意ではありませんでした。私は、それまでの通訳としての知識や技術をフルに活用して、伝えられたことを一生懸命に訳し、問題なく終了したと思っていたのです。実際、3名は何も問題なかったのですが、英語が苦手な方は、最終日、私ではなく、英単語を並べ、身振り手振りを交えて、コミュニケーションをとっていた日本人の方に、「君の英語は分かりやすい」と、笑いながら仰いました。お二人は、その後も、とても楽しそうに話し続けていました。

私が間に入って頑張って通訳をしていた筈なのですが、そのイタリア人の方は私の英語をよく理解できず、単語だけで話していた日本人の方の言葉の方が分かりやすかった訳です。例えるなら、「山を登る」という言葉は知っていても「登山」は分からないといった感じでしょうか。自分がうまく訳すことや、知っている難しい表現を使う事に満足することが通訳なのではなく、相手に伝えることが通訳であると、身をもって実感しました。

6) 母国語の大切さ

通訳をしていると「頭の中ではどのように考えているのか」と聞かれることがあります。例えるならば、誰かから聞いた話を、他の人に話す場面を想像して頂けると良いかと思います。その場合、短い話であれば一語一句伝えることができるかもしれませんが、大抵は、誰もが聞いた話を再構築しています。これに、違う言語へ変換するという作業が加わったのが通訳です。相手に言われたことを自分が理解し、第三者に説明するようなイメージです。

話の内容の難易度が高いほど、通訳が理解するという行為が大切になります。通訳学校で習った際は、内容が難しければ難しいほど、メモをとらずに集中しろと仰る先生もいらっしゃいました。通訳者がしつかりと話の内容を理解している場合は、実際に話されている内容と通訳者の口から出た内容を比べてみると、通訳者の方が分かりやすいということもあり得ます。自分が理解して、他人に分かりやすく説明するという行為を短時間、同時通訳ともなれば何秒か遅れで行う訳ですから、英語ができるだけではだめで日本語の理解力や文章作成能力も、とても重要です。